代表取締役になってみて
ついに念願の社長、代表取締役になってみて感じたことは…
意外に、あまりにも、なんの感動も達成感も無かった。
僕は、高校を出た後、ミュージシャンを目指して入った音楽学校(ロックギター専攻)を一学期で中退し、ミュージシャンといってもギタリストとかではなくて、本当はシンガーソングライターに憧れていたので、中退した後は、ライブハウスに出演することを目標に、毎日一人で曲作りに励んでいた(その後、ライブハウスのレギュラー出演のオーディションを受けて二度目で合格。毎月30分のステージで歌い始める)。
高校を出たあと、音楽学校を中退するちょっと前に、バイトで貯めた金で東京に出てきてアパートを借りて一人暮らしを始めて、フリーターで日々の暮らしを支えつつ、ライブハウスでオリジナルを弾き語りで歌う日々が始まった。
そんな感じで、「サラリーマンにはなりたかなえ♫」みたいな感じだったし、正社員で働くことも、ましてや会社を経営するなんて、微塵も考えたことはなかった。
そんな頃、憧れていた尾崎豊が死んでしまったあの時代に、僕は初めて、書店で働くことになった。初めはアルバイトだったが、妙に書店の仕事が肌に合うし、そこにいる人たちとも気が合う人が多く、やっと居場所が見つかった感じだった。
その後、シンガーソングライターの夢は捨てられなかったが、二社目に働いた書店で店長推薦でアルバイトから正社員になり、本格的にこの業界でプロとして働くようになった。
気がつけば、この時代から、いままで、四半世紀(途中半年ほどIT業界に浮気したが)も、本の周りで働いている。
そう考えると、出版社の経営者になったのは、自然の成り行きだったのかもしれない。
よく考えると、小学生の頃から書店が大好きで、生まれ育った埼玉の陸の孤島の商店街にあった三軒の書店をよくハシゴして立ち読みしていた。
あの頃から本が、本がある空間の書店が大好きだったのだ。
でも出版社の経営者になったこの時代が…あまりにも厳しい時代になっていたことが、誤算だったのか、それとも何か意味があるのか、あと30年ぐらいして人生を振り返ったら、わかる時が来るのかもしれない。
この記事の執筆・監修者
春日俊一(かすが・しゅんいち)
株式会社アルファベータブックス代表取締役。埼玉県生まれ。
若い頃はシンガーソングライターを目指しながらフリーター。その後、書店員、IT企業、出版社の営業部を渡り歩いたのち、2016年にアルファベータブックスに入社。2018年に事業承継して代表取締役に就任。