半沢直樹はいない
社長になってすぐのころ、YouTubeに一話ずつ全話アップされていた(中国語の字幕がついている違法アップロード?)、堺雅人が演じたテレビドラマ『半沢直樹』をスマホで通勤の行き帰りで全話観た。
半沢直樹はメガバンクの銀行員。ドラマでは自分達のことを英語で「バンカー」と言っていて、なんかそう言うとイメージが違う。カッコいい(いや別に銀行員が格好悪いというわけではないですが(^_^;))。
このドラマを観てると、なんか銀行って怖いなあ、という印象も受けました。経営に苦しむ中小企業への融資を渋ったり、融資の相談に来た銀行から出向している経理部長をいびったり(「こんな事業計画じゃ貸せねえよ!もっとましな数字入れてこいよ!」ちょっとセリフは違うかもしれませんが、そんな感じ)。
このドラマに出てくる印象的なセリフがあります。「銀行は雨の日に傘を取り上げ、晴れの日に傘を貸す」というセリフです。これは、企業と銀行の関係を表していますが、企業の経営が好調で決算が良い時は、どんどん融資してくれるのに、経営が苦境になり、まさにどうしても資金が必要な時には融資を渋って、最悪は資金を回収しようとするというような意味です。
このドラマを観てから僕は銀行に融資の相談をしたんです。ドキドキ、ヒヤヒヤしながら。
先輩の経営者からは「決算書が良いんなら大丈夫じゃね」とは言われていたし、実際、その時の直近の決算は3期目で黒字、売上も過去最高(利益はちょっと)でしたが、その3期に本を作り過ぎてしまったために、製作費が増え過ぎて、当時は、あまり資金に余裕がない状態でした。取次から売上が全額入るのは新刊を発売してから6ヶ月も先になるので、あんまり無理に本を作りすぎると、回収が間に合わなくなります。まさにそんな状況でした。
決算書は確かに小出版社にしては僕も良い方ではと思っていたのですが、融資の際は、連帯保証人になる社長個人の資産や過去の実績が問われるとネットで調べて知っていたので、そこをどう見られるかが怖かったのです。
ただ、実際は、銀行といっても、「半沢直樹」のドラマに出てくるようなメガバンクではありません。我が社が相手をするのは(我が社の相手をしてくれるのは(^_^;))、中小企業に融資して経営を支援する信用金庫や信用組合でした。こっちから出向かなくても、担当の銀行員はわざわざ小さな我が社に何度も足を運んでくれて、腰も低くて礼儀正しい若者ばかりでした。
融資の相談の際に、まず見せてくださいと言われるのが決算書ですが、先ほども書きましたが、決算の数字は悪くはなかったので、ササっと出しました。銀行の担当の方は、決算書を見ると「うーん、悪くはないですね」との反応でした。
その後は、お願いする融資の額を決め、いざ融資の申し込みの段階になると、社長である僕の資産や経歴を案の定、聞いてきました。
まあ銀行からすれば、この人は、もし会社の経営が厳しくなっても、個人で返済する能力がある人なのか見極めないと、銀行もお金を貸した後に、潰れて回収できなくなっては、それこそ半沢直樹ではないですが、仕事の評価は下がり最悪降格とか出向になってしまうこともあるのでしょうか(信用金庫が実際どうなのかは知りませんが)。
ということで、私の資産を担当の銀行員に教えなくてはいけなくなりました。
結婚してるのか? 子供は? 家は一戸建なのか? 持家か? ローンはあといくら残っているのか? 貯金はどれくらいあるのか? クレジット、キャッシング等のローンの残債は?
などなど、普段他人には決して明かさないようなことまで、特に初めて融資をする社長には細かく確認してきます。あと今までの経歴も聞かれます。
ある信用金庫の担当の方からは「学歴は大学卒からでいいので、書いてください」と言われて、嘘をつくわけにもいかないので「いえ、大学は行ってなくて、高校卒業後は、音楽学校に行ってました。一学年で中退しましたが…」と正直に答えました。僕は学歴には誇るものは何もないので、いままで四半世紀にわたりやってきた書店と出版社での仕事の実績をアピールして、なんとか銀行員に好印象を与えることはできたようですが、内心はヒヤヒヤしてました。
ということで、いままで銀行から資金を借りて返してきた実績のない僕には、やはり簡単には金を貸さないことがよくわかりました。段取りが結構面倒でした。ハンコを捺す書類も多いです。
最初の融資は、もし我が社が潰れて返済できなくなっても、融資が焦げ付かないように銀行に保証してくれる保証協会や保証会社の保証が取れればというのが、最終的に融資の条件になりました。まずは、この保証協会と保証会社を突破しないといけません。
その後、事業計画書も作って、我が社の将来性や、僕が仕掛けようとしている利益増の様々な仕組みづくりや計画をアピールしたら、保証会社の保証はわりと早くおりましたが、保証協会の保証がなかなかおりません。しまいには我が社の3期目の決算書の小さな計算ミスを見つけられて、「これは修正申告しなくてはいけないかもしれませんよ」ということになり、保証がストップしそうになりました。
この時は焦りました。「ええ〜そんなの想定外だし…」という感じです。
その後、新しく顧問税理士になってもらった先生に相談して、「これは、ちょっとした計算ミスで今度の決算で繰り入れても問題のないレベルだ」ということを保証協会に銀行の方に説明してもらって、なんとか理解してもらって、時間はかかりましたが、結果的に希望の満額の融資がおりました。
これで資金繰りは、しばらく安定して、取次の入金も入ればさらに大丈夫。という状態になり、ひとまずホッとしました(^ ^)。
会社の事業資金、運転資金を銀行から借りるには、会社だけでなく、社長個人も見られる、という経験をし、過去にクレジットの返済の延滞とか無くてよかった〜、金もある程度用意しといて良かった〜と身にしみて感じたわけです。
起業だけでなく、事業承継であっても、銀行からの最初の融資は、社長個人も細かく観察されるのです。
これからやろうと思ってる人は、やはりある程度の自己資金(最低300万、できれば500万以上)と、過去にクレジットの返済の延滞等がないかなど調べておいたほうがいいと思います。
僕は、かつて倒産を経験して、その後また復活して起業した某社の社長から教えてもらった、新宿にある自分の信用情報を見ることができる(有料)、CIC新宿 http://www.navarronet.com/faith/cic.html というところに行って確認しました。過去5年以内にクレジットの延滞や、自己破産など経験してると、こういった機関に情報が残ってしまいます。銀行は融資の判断に、こういった機関で社長の信用情報を確認しますので、融資の相談の時に過去5年以内に信用情報に問題があることを隠してもバレてしまうわけです(逆に言うと5年経てば時効で信用情報をリセットできるとも言えますが)。
社長になろうとする方は、この辺も気をつけておかないといけません。
このnoteのタイトルの「半沢直樹はいない」というのは、半沢直樹のドラマに出てきた話のような、壇蜜が演じたキャバクラ嬢がネイルサロンを開店する時に、大手銀行のバンカーの半沢直樹が、その開業資金を将来性を見込んで、融資するために頑張って上司に否定されながらも、稟議を通して(通した場面は出てきませんでしたが)融資してあげるのですが、経営経験のないキャバクラ嬢に大手銀行が将来性を見込んだぐらいで開店資金を融資はしてくれないだろうし、そんなことで頑張ってくれるバンカーもほとんどいないだろうなということを、この間、バンカー達と接してみて感じたからでもあります。
経営経験も資産も実績もない人間が、銀行から多額(数千万とか数億円とか)の融資を得るのは、そんなに簡単なことではないのです。
この記事の執筆・監修者
春日俊一(かすが・しゅんいち)
株式会社アルファベータブックス代表取締役。埼玉県生まれ。
若い頃はシンガーソングライターを目指しながらフリーター。その後、書店員、IT企業、出版社の営業部を渡り歩いたのち、2016年にアルファベータブックスに入社。2018年に事業承継して代表取締役に就任。