トランスビューのすごいところ
先日、出版社の資金繰り(支払いサイト)の問題について書きましたが、出版業界に身を置く僕が知っていることで、触れておかないといけないことがあることに気づきました。
それは、以下、前に一度触れた、出版社でもあるトランスビューさんと協業して本を書店に流通するやり方について、ざっくりと紹介します。
トランスビューさんのシステムは、既存の取次を使って本を流通させるシステムの様々な問題をクリアできるシステムを採用してます(弊社はトランスビューさんと協業してるわけでもなく、この記事は僕が勝手に書くことです。なのでなんの利害関係もない記事ですが、知り合いの先に起業した先輩方の出版社が、いくつか協業していて、経営もうまく回しているのを知っているので触れないわけにはいきません)。
それはどういったシステムかというと、取次を介さないので、中間マージンを取次から取られず(当然ですが少しはトランスビューに手数料を払うと思いますが、ボランティアではないので)、出版社が基本的に直接書店と取引するので、本の売上、利益を書店と出版社で分かち合うので、取次を介して本を流通させるよりも、書店も出版社も利益率がすっと高いこと。
あと取次に新刊を卸すと、良くも悪くも、取次の機械的な配本パターン(ジャンルや出版社、著者の実績等で計算したパターンがあるそうです)で全国の書店に配本するので、時には、その本を必要としない書店にも配本されて、最悪、即返品になり、返品率を押し上げることに繋がりますが、トランスビューの場合は、そういったパターン配本はしてないので(注文のあった書店にのみ配本)返品率が低くなり、無駄に作ったり、返品が来て初めて知るような過大な市中在庫で幻となる期待値の実際は存在しない売上によって、経営判断を見間違って資金繰りを狂わせる(ここは大事なことですが、そのかわり、書店から注文が多数でるような、書店が注文したくなる興味深い企画でないと注文が少なくて少ししか書店に卸せなくて、最初から売上が経営するには足らなくなるかもしれません。でも、長期的には企画が良くて確実に書店が注文して売ってくれる本を作ることが、一番出版経営にとって大事なことなので、それが本当は正しいことだと思いますが)。
さらに、返品率が低いことに加えて、取次を介さないので、取次の支払いサイト(書店には即請求、出版社には半年後支払いなど)に振り回されないので、書店から出版社への支払いサイトが取次を介すよりも、かなり短いようです(具体的にはトランスビューさんに問い合わせてください。)。
(他にも、取次を通すより、注文があってから書店に届く日数が、取次だと1週間から10日かかかるところが、3日から4日とかなり早い。配本先の書店がすべて把握できるなどの取次を通すより利点がある)
以上のように、今、取次を介して起こっている中心となる問題点をトランスビューのシステムは解決してしまっていることになります。
このシステムを考えたトランスビュー、工藤社長は近年の出版業界における数少ない革命的な仕事をしたと思います。興味のある方は、直接トランスビューに問い合わせみてください。
じゃあなんで我が社がトランスビューのシステムを使ってないのか?
と思われたかと思いますが、出版社を一から起業される方には一番にお勧めしたいことに変わりわないのですが、出版社を事業承継した場合は、すでに取次に多額の売掛金(新刊を委託してまだ取次から支払われていない売上が中心)が残っていたり、取次が配本した本の市中在庫が、これまた計り知れないほどの数ある場合があるので、取次との取引をやめる時点で、下手をすると経営を危機におとしめるほどの返品と、売掛金がどれぐらい戻るのは分からないので、これらが少ない出版社(売掛金がちょっとしかない新刊を毎年わずかしか取次に卸してなかった出版社)を事業承継する場合とかでないと、ちょっと難しいかもしれません。僕が引き継いだ出版社は、音楽書の専門取次にも卸してましたし、市中在庫もかなりあり、売掛金も取次に数千万あったので、無理でした。
最近よく雑誌で話題の「ひとり出版社」(文字通り経営者一人が、企画、編集、営業、経営をすべてやっている出版社)が、多数トランスビューと協業しているのは、ちゃんと理由があったわけですね。
あと、トランスビューなどの他社の力を借りずに自社で書店との直取引をしている出版社もありますね。
有名なところだと、ディスカヴァー・トゥエンティワンとか、ミシマ社、永岡書店、アスク出版など、社員がある程度揃えられる出版社なら自社で書店販売ルートを構築することもできるという例もあります。昔、僕は書店で働いていたこともあるので上記の出版社何社かの仕事を直接見たことがありますが、共通しているのは書店に営業する現場のスタッフの販売網構築の営業努力が凄まじく、全国の数千の書店に毎月営業で顔を出すようなレベルで書店と関わっていたので、その熱意は本当に凄かったですが、やはりその結果、現場をよく知るがためにできる企画と書店が支持するためにむやみに返品されずに、返品率も低かった印象があります。
※この記事を書いたあとに気づきましたが、既存の出版社でも、社内で別レーベルみたいに別ルート販売として立ち上げれば、こういった書店との直取引ルートも取次ルートとはべつにできるかもしれませんね。
この記事の執筆・監修者
春日俊一(かすが・しゅんいち)
株式会社アルファベータブックス代表取締役。埼玉県生まれ。
若い頃はシンガーソングライターを目指しながらフリーター。その後、書店員、IT企業、出版社の営業部を渡り歩いたのち、2016年にアルファベータブックスに入社。2018年に事業承継して代表取締役に就任。