経営の難しさ
社長、経営者になって、無事3度目の月末を乗り越えた。
怒涛の3ヶ月であったが、資金繰りもひとまずは安定し、最近出した新刊も2点重版がかかり、今年の冬から来年の夏にかけてやる企画も、ほぼ揃い(しかも結構、大型企画が何点もある)、気がつけば、追い風が吹き始めている。
でも、しかし、である。
経営者になって初の決算を9月に迎えるが、まだまだ絶対的に良い決算になるかは、正直見えない。
決算書の読み方を税理士に教えてもらったり、本を読んで勉強したりもしたが、何か漠然とした、「なんかよく分からんなあ、決算って、決算書って」という気持ちが拭えない。
やはり何度か決算を実際に乗り越えないと、感覚的にも分からず、経営判断も経験に基づく地に足が着いた感じには、やはりならないような気がする。
そんなモヤっとした気持ち悪さを感じつつ、先輩の出版社の経営者達のことを考えた。
そんな時に、先日倒産した三五館の星山社長のことを書いたnoteをたまたま見つけて、読んだ。
星山社長は伝説の編集者で、三五館の前に、情報センター出版局で編集者をされていた頃に、椎名誠『さらば国分寺書店のオババ』、村松友視『私、プロレスの味方です』、藤原新也『メメント・モリ』など、いまも語り継がれ、売れ続けているベストセラーを手がけた、まさに敏腕編集者だ。
情報センターを辞めて三五館を立ち上げたあとも、ベストセラーを出し続け、少出版社でもベストセラーは、紛れ当たりではなく、企画力で何度でも出せることを証明したような人だと僕は思う。
僕は一度か二度、星山社長に実際にお会いしたことがあるが、それは僕が編集した、『スプーン曲げに夢中』という一風変わった(一風どころではなく、そんな写真集は世界初かもしれんが)写真集を出した時に、その出版記念パーティに来られていて、著者に紹介していただいたことがある。かなり背が高くて、何か変わったオーラを出していたが、その時何を話したかはまったく覚えていない。ただ、そういう一風変わった写真集を出す、個性的な写真家、アーティストとも付き合いが深く、ただ世の中の売れ筋を見て、当てて、ベストセラーを出す編集者ではなく、誰も見向きもしない、気づかないダイヤの原石を、誰よりも先に掘り当てる眼力があるタイプの編集者だと、僕は勝手に分析していた。
が、しかしである。
三五館は倒産してしまうのである。
社員を多数抱えるでもなく、無理な経営をしてるようには見えなかったが、倒産してしまった。実際のところは分からない。何か外には見えない無理な経営をしていたのかもしれない。
しかし僕は、あれだけの企画力と先見性と当て感のある編集者が経営をしていても、倒産してしまうのを目の当たりにした時、「ええ〜星山さんでも倒産するのに、俺みたいな、まだまだ『編集者です』と胸を張って名乗れないレベルの俺が、出版社を経営するなんて、果たしてできるのか? 大丈夫が? と、一瞬怯んだのを覚えているが、すぐにその考えは頭から打ち消した。
そんなことを考え出したら、僕よりすごい編集者なんて、業界に掃いて捨てるほどいるはずだから、自信なんて木っ端微塵になってしまう。木っ端だ! もう自分の中には、なにも信じられるものなど無いのである。
だから打ち消す。
それでも、そんな僕でも、ひたすら諦めずに、本を作り続け、感性を磨き続ければ、いつかは敏腕編集者、伝説の出版人といわれるほどに成長することを信じて(そのために出版をするわけでは無いが)、僕は出版社を経営していく。
まあ、そんなことは、いいや。
楽しく、熱く、編集をして行ければ、それでいい。
でも著者のためには、
やはりベストセラーに育てていける本を作らないと、著者の苦労が報われない。
なかなか出せない。
申し訳ない。ごめんなさい。
まだまだやねえ、俺
(「僕」と「俺」が混在してるが、ふだん話すときも混在するので、そのままとする。あとよく関西弁も混じる。仲のいい経営社や、憧れの経営者に関西人が多くて、彼らと話していると単純な僕はすぐ感染してしまい、自然に熱くなりたい時に関西弁が耳の奥から聴こえてくるからだ)
この記事の執筆・監修者
春日俊一(かすが・しゅんいち)
株式会社アルファベータブックス代表取締役。埼玉県生まれ。
若い頃はシンガーソングライターを目指しながらフリーター。その後、書店員、IT企業、出版社の営業部を渡り歩いたのち、2016年にアルファベータブックスに入社。2018年に事業承継して代表取締役に就任。