2018年08月17日

経営の優先順位・その2

まだ経営者になって4ヶ月に満たないヒヨっ子社長ではあるが、たったこの数ヶ月で分かったことを書いていこうと思う。

前回「その1」では、とにかく会社に現金が常にある状態にしておけ、と書いたが、それは今も変わらず、会社を潰さないためには大事なことだと思う。
会社にお金が足らなくなってくると、「お金をより早く得ること」が仕事の優先順位のトップに来てしまい、手っ取り早く金が入る自費出版を無理に急いで作ったり、無理なスケジュールや締め切りでとにかく取次の締めに間に合うように急いで本を作ったり、社長が貯金を切り崩して、自己資金を投入し続けたりと、それが、どんどんきめ細かな作業、編集、宣伝、営業をできなくさせ、結果的にその会社の本のレベル、価値を下げ、売上減少、返品増という形で跳ね返って来る。
まあ、頑張って編集に時間をかけても売れない本もあるが、それでも、その編集にかけた思い、得た技術と経験は、次の編集にも役立ち、より売れる本を作るためのスキルになるので、やはりどの本も、可能な限り、時間と金の許す限り、編集と宣伝と営業にエネルギーを注ぐのが、本作りの基本であると思う。

それを続けるためにも、常に会社にお金をある程度持っていることが重要だ。それによって時間的にも、精神的にも、余裕が生まれる。

前振りが長くなったが、とはいえ、会社に金を常にある程度確保するには、銀行から融資を受けるか、誰かに出資してもらうか、自己資金を投入するかしかない。

誰かに出資してもらうことについては、僕は否定的だ。
出資額が少なければいいが、多くなればなるほど、その出資者の影響を受けることになる。今時、なんの見返りも期待せず大金を他人の会社に出資する人間なんていない。会社の経営がうまくいかず、その出資者に何も還元できなければ、関係は悪化し、最悪「金返せ!」となる(出資金だから借金とは違うので基本的に返済義務はないが、揉めるのは間違いない)。
一人当たりの金額を少なく、多数の協力者から出資を募る手もあるが、それもあまり僕は考えなかった。額が少なくても、もし倒産したら多くの方に迷惑をかけることになる。他人の会社に金を出してくれるような大事な協力者の信頼を失うことになりかねない。今後自分の長い人生で協力者、人脈は大切。それを損なっては、どうにもまともに生きては行けない。
だから、それは避けたい。

やはり、銀行、金融機関から融資をしてもらうのが、一番いいと僕は思う。
そして金融機関もたくさんあり、銀行、信用金庫、信用組合。中小企業を支援してくれる金融機関がいい。出版業界では文化産業信用組合など、大手出版社や印刷会社の社長が理事をしている信用組合もあって、出版社の事業承継などの支援、融資もしている(僕はここに事業承継にあたり相談し、融資もしていただいた)。
様々に、金集めに、あの手この手を使いこなせる器用で心臓の強い人以外は、僕のような、特に華々しい経験や人脈のない人間は、やはり、変な手を使わずに、真っ当に金融機関から融資してもらうのが、一番だと思う。

ただ、融資を受けるには、会社の経営を、本作りを長期にわたって粘り強く続けられる確かな理由、目的が必要にはなると思う。
今後、その出版社でどんな本を作りたいのか、毎月どれだけ作り続けていくのか、いけるのか。そのための書き手を確保できる、すでに確保しているのか、企画がこの先最低1年は枯渇しないだけの仕込みをすでにしているのか。
これらのことが、決して妄想ではなく、たしかに現実的にやり続けることができるならば、経営計画や資金繰りの計画も自分で立てられるし、それを金融機関に示して、融資を受けるために使うこともできる。

ということで、出版社の経営の優先順位、その2は、書き手に約束してもらって出してもらうことが確定した本の企画を最低1年分(会社の社員の人数、規模で違うが、社員1人だったら最低年間6点、2人だったら12点、なので社員一人当たり、年間6点新刊を出せるように企画を立て続ける)確保すること。

そうすれば、毎月売上が立ち(年間6点だと、ちゃんと売れないと、結構自分の給料を出すのも精一杯ではあるが…)、金融機関からも、「この会社は安定的に生産して頑張っているから信用できる=金を貸せる会社」となる。

その2も同じぐらい、その1と同じぐらい出版社の経営では重要なことだ。
本質的には一番重要なことかもしれない。

この記事の執筆・監修者

春日俊一(かすが・しゅんいち)
株式会社アルファベータブックス代表取締役。埼玉県生まれ。
若い頃はシンガーソングライターを目指しながらフリーター。その後、書店員、IT企業、出版社の営業部を渡り歩いたのち、2016年にアルファベータブックスに入社。2018年に事業承継して代表取締役に就任。