納品は早く、返品は遅く
出版社の経営をするようになって取り組んだ物流改革の効果が徐々に出始めている。
取次に納品できるスピードは、出版VANの接続により、弊社の取り引き倉庫会社のワタナベ流通に在庫があれば、注文を受けた翌日に取次に納品できるので、早い書店だと3日後には届く。改革前に比べると、4日以上早くなっている。
これは書店と読書にとっては、注文した本がすぐに届くという顧客満足度アップに繋がるわけだが、実は出版社の経営面でも重要なことだと気づく。
納品が早くできれば、例えば数字上は書店からの注文数が増えていなくても、取次に請求する締め日により多くの本の売上が入れられるので、入金ベースの売上が良くなるのだ。
どういうことかというと、遅いと翌月分の締めにずれ込む売上が出てくるということ。
だから実際は書店から取次に出た弊社の本の、その月の注文数が同じだとしても、納品が早まって締めに多く入った分、取次に出す請求書の金額は増えるのである。早食いということだ。
年間の書店からの注文数が同じでも、納品スピードが上がれば前倒しになった分の入金ベースの売上が増え、出版社の資金繰りは、より楽になるという構造だ。
逆に返品は、取次が週2便、倉庫会社に戻してくるが、そのスピードに特に最近の変化はないようなので、返品によって締めまでに削られる売上の数は変わらない。今後、取次が構造改革して、より早く返品が出版社に返ってくるようになると、結局売上が早く削られるので、出版社の資金繰りは苦しくなるのかもしれない。
なので、長く置いてもらえる経営状況の書店さんには、なるべく長期間、棚1冊でもいいので長く陳列してもらうことが、取次と出版社の資金繰りを助けることにも繋がる。
とはいえ書店からすると、すぐに売れない本は、すぐに返品しないと、まだ売れてない分の本まで、取次から書店への請求額が増えるので(請求はあくまで納品から返品を引いた額で、実際に書店で客が買った本の数ではない)、今度は書店の資金繰りがきつくなる。
より早く、確実に売れる本でないと書店の経営を圧迫する。
そうなると、流行りの本ばかり並べることになるので…そういう品揃えにすると、それはそれで本当にたくさん書店で本を買うようなヘビーユーザーを、その書店は知らず知らずのうちに逃していき、結果的に長い目で見らと書店の売上は下がり、経営は一層厳しくなる。
うーむ…困ったものだ…
この記事の執筆・監修者
春日俊一(かすが・しゅんいち)
株式会社アルファベータブックス代表取締役。埼玉県生まれ。
若い頃はシンガーソングライターを目指しながらフリーター。その後、書店員、IT企業、出版社の営業部を渡り歩いたのち、2016年にアルファベータブックスに入社。2018年に事業承継して代表取締役に就任。