書店営業をしてくれている頼もしい会社
我が社は、私を入れて総勢たった3名の出版社で、社長である私は、経営から編集、営業管理やHPほか物流管理、Amazonとの取引の日々の管理業務や、ネットやFAX等を使った宣伝販促などなど、なんでもやっていて、もう一人は、編集をしながら、日々のお金の出し入れなどの出納帳の管理や請求書の作成、広告制作、そして、もう一人は、編集をしながら書店からの注文の入力などの営業事務をやっている。
なので、これ以上のことはマンパワー的に難しく、時間と体力をかなり使う書店営業にまで、まわせる人員は我が社にはいないので、書店営業については外部の営業代行会社に委託している。
この営業代行会社は、私がネットで検索して見つけた会社で、業界の友人知人からの紹介でもなく、それまで何の繋がりもない会社だったが、営業代行会社を探す際に、数社面談をしたり、メールのやりとりをした中で、この会社が良いと思って決めた。なぜこの会社に決めたのか、その理由は、実は、それは直感に近いものだった。
私は、前職の出版社では15年間、営業部に在籍していて、全国の書店を延べ数千回は訪問営業したと思うが、その15年の月日の中で、出会い、見てきた、同業他社の凄く優秀な営業の方たちの記憶が強烈に残っていた。それは、言葉では表現できない、人間力というか、凄み、見えるわけではないが、オーラが滲み出ているような、そんな人が超優秀な営業には多かった。
その営業代行会社の社長と初めて会った時感じたのは、正直言うと「ちょっと取っ付きにくいな…くせが強いな…」という感じだったが、話しているうちに、「この人は、たぶんものすごい軒数、回数、書店を訪問営業してきた人だな」という匂いを強く感じ、身体からそれが滲み出ているように見えた。他にも良さそうな営業代行会社はあったが、迷ったすえ、自分の感じた、この直感を信じて、その社長の営業代行会社に、我が社の本を書店営業してもらうことに決めた。
そして、まずは一発目の本、『三船敏郎の映画史』の書店営業をやってもらうことにしたところ……驚いたことに、ほとんど毎日のように、書店から受注した注文チラシが我が社に届き始めた。その営業代行会社は、当然、他の出版社とも何社も契約しているので、我が社の本だけ営業していればいいことなどないのだが、ものすごい営業力である。その社長と関西にいるもう一人の方からも毎日のように受注したチラシが届いた。それこそ、雨の日も風の日も真冬も真夏もである。
これはなかなかできることではない。どうしても調子が上がらない時も必ずあって、書店営業は、書店員が忙しく働いている合間を縫って、隙間時間に相手をしてもらう都合上、かなり神経も使うし、営業する時間を書店員に取ってもらえないことも多いし、自分の思い通りに、スケジュール通りになんて書店営業はできない。そのような状況下で、毎日注文をあげてくるのは、本当に大変なことだと思う。私が前にいた出版社でも、一部、営業代行会社を使ったことはあったが、なかなか自社で作った本を営業するわけでもないのでモチベーションが上がらないのか、やはり自社の営業スタッフに比べると、その時の営業代行会社は、本当に少ない注文しか上げてこなかった。そういう経験があったので営業代行会社に営業してもらう際には、絶対に注文をちゃんと上げてきてくれる会社でないと(ちょっとしか注文を取れないような営業代行をしてもらっても、その程度ならば、お金をかけて営業代行会社は雇わずに、たまにでも、自分で書店営業をした方がいいと思う。そもそも注文が上がってこないので書店営業を本当に営業レベルでしているのかも分からない)、やってもらう意味がないと思っていたので、本当にこの会社に我が社の営業代行を頼んでよかったと思う。
お陰様で『三船敏郎の映画史』や『特撮のDNA 平成ガメラの衝撃と奇想の大映特撮』『石原裕次郎昭和太陽伝』『みんなの寅さん from 1969』『七人の侍 ロケ地の謎を探る』など、この会社お陰で、初回配本時の注文を多く取っていただいていたので、弊社のような小零細でも、満足いく部数を取次会社が最初から取ってくれて初回で平積みが多くなり、その万全の体制の時に、販促活動を集中して、さらに新聞や雑誌の書評が出たりして話題になれば、全国の大型店はだいたい漏れなく抑えているので、すぐに売行きに反応があって、そのまま波に乗ることができて、どの本も予想以上に売れることになった。
ただ、気をつけなければいけない大事なポイントは、売れる、話題になりそうな本の注文をたくさん取ってもらうということにもある。売れそうもない、話題になりそうもない本の注文を無理にたくさん取ってもらっても、それが売れなくて結果的に書店から大量に返品になったら、そのあと営業代行会社も書店に営業に行きにくくなるし(「この前、おたくに勧められて注文した本、全然売れなかったよ。ちょっとがっかりだったなあ」などと言われると、一生懸命勧めて営業した側は、とても辛いところです)、そうなると最悪、他の契約出版社にも迷惑がかかるし、出版社自身も返品増で作り過ぎで最終的に赤字になるので、お互い傷を負うことになる。だから書店営業をお願いするときは、こちらでその辺のことも、ある程度見極めて、営業代行会社に書店に営業をお願いすることが同時に重要なことだと思う。
やはり営業は、出版社にとって、大きな存在である。そのことを、あらためて教えてくれたR社さん。
いつもありがとうO社長、関西のTさん。いつも感謝しております。
※追記 ただ、売れない本は、全部ダメなのか、出す意味がない、などとということは、私は思っていないし、そんなことを伝えたいとは思わない。本は、そんな浅はかなもの、軽いものではないと私は思っている。「本は芸術品である」と、私は今、あらためて思う。作家が、翻訳家が、編集者が、ブックデザイナーが、印刷会社や製本会社や紙屋が、丹精込めた仕事、技術と想いが凝縮されて作り上げられた本は、芸術レベルの価値がある。それと売れることは、また別のものなのだ。イコールならば、ビジネスと芸術が両立するならば良いのだが、それは簡単にそうはならない。でも今売れなくても、いつかその仕事の積み重ねが花開くならば、売れなかった本にも、売れた本と同じぐらいの、ビジネスとしてお金を生む価値もあるはずだ。
この記事の執筆・監修者
春日俊一(かすが・しゅんいち)
株式会社アルファベータブックス代表取締役。埼玉県生まれ。
若い頃はシンガーソングライターを目指しながらフリーター。その後、書店員、IT企業、出版社の営業部を渡り歩いたのち、2016年にアルファベータブックスに入社。2018年に事業承継して代表取締役に就任。