2021年11月16日

激変する出版業界の流通……サメのように生きて、サメのように長生きしてやる!

ついに全国規模で、書店に本を卸して配本してくれる規模の取次会社がトーハンと日販の2社だけになってしまった衝撃は、この業界に25年いる私には、やはりかなり大きい。何もかもが変わってしまったのだ。
しかもここ5年ぐらいの変化は凄まじい

今朝、取次会社各社への新刊委託部数が決定した弊社の新刊は、トーハン300冊、日販175冊、楽天ブックスネットワーク(旧大阪屋)10冊……合計485冊。それが、取次会社各社から全国の書店や図書館に卸してもらう、この新刊の冊数のすべてだ。
ちなみに新刊のジャンルは人文書だった。

楽天ブックスネットワーク(旧大阪屋)が、リアル書店へ本を卸す事業から、先月10月でほぼ撤退(今後は、楽天ブックスやヨドバシカメラなどのネット書店を中心に取次業務を行うとのこと)し、これまで楽天から新刊配本を受けていた書店は、主に日販に取次会社を変えることになった(楽天ブックスネットワークと日販は「協業」と言っているので、厳密には「変更」とは違う業務提携的なものらしいが、流通の流れは帳合変更と変わらないし、出版社から見ても、やはり完全に「帳合変更」だ)。
日販としても、ビジネスなので、そのまま丸ごと楽天ブックスネットワークから卸していた書店に、楽天ブックスネットワークと同じ数の新刊を卸すとは思えず、いろいろとこれを機に合理化したりと、考えていることはあると思う。実際のことは分からないが、それも不安に感じる。

つい6年前までは、弊社が取引していた全国の書店に本を卸す規模の取次会社は、トーハンと日販と楽天ブックスネットワーク(当時は大阪屋)のほかに、栗田と太洋社があり、計5社もあった。
そしてジャンルに特化した本の取次でも、旅行書や鉄道書を卸してもらっていた日本地図共販と、学校図書館に巡回販売をしていたノトス・ライブがあったが、今では、トーハンと日販と楽天ブックスネットワーク(旧大阪屋)を残して、全て倒産して消えてしまった。
そこへきて、楽天ブックスネットワークのリアル書店からの撤退。全国の書店に卸す規模の取次会社は、ついにトーハンと日販のみになってしまったのである。

もうこれ以上減りようがないほど減ったわけだが、今までの取次任せの新刊委託配本で経営していく一般的な出版社のビジネスモデルはほぼ崩壊したのではないだろうか。特に、コンテンツの販売や不動産経営で儲けられる大手版元以外の、取次会社から書店に配本してもらって、その本の売上だけで経営してきたような普通の中小出版社は、いままでの出版社経営のやり方では、経営を維持するのは難しく、いままでの成功パターンも、もうほぼ通用しなくなってしまっていると思う。

もう何年もたったが、こういった状況を見越して、トランスビューなどの、小さい出版社の本でも、ちゃんと全国の書店を相手に取り次いでくれる小規模の取次会社、取次に頼らずに書店と直取引でも経営を持続化している、アスク出版やディスカバリー21や、ミシマ社なども出てきたわけだが、どこも順調に売上を伸ばして成長している。やはり、旧来の考えから脱して、どんどんやり方を変えていくしか、生き残る道はないのは間違いない。

弊社でも、2年前ぐらいから、ジャンルに特化した書籍の直取引の拡大、ネット書店との直取引開始など、既存の取次会社以外での書籍販売の取引を意識的に増やしてきていて、今やその売上だけで、取次会社一社分ぐらいの売上になりつつあるが、我が社は人数が少ないので、新規の直取引が増えると、送返品作業や請求業務が煩雑になり、いろいろと大変ではある。
しかし、もうこの勢いは変わらないから、どんどん新たな取引形態を増やしていく努力がますます必要になる。

立ち止まったら死ぬ、泳ぐのをやめたら溺れる。
サメのように生きて、サメのように長生きしてやる!


この記事の執筆・監修者

春日俊一(かすが・しゅんいち)
株式会社アルファベータブックス代表取締役。埼玉県生まれ。
若い頃はシンガーソングライターを目指しながらフリーター。その後、書店員、IT企業、出版社の営業部を渡り歩いたのち、2016年にアルファベータブックスに入社。2018年に事業承継して代表取締役に就任。