出版社の経営の仕方は千差万別で、他社の経営は参考になりにくい
先日、我が社と同じぐらいの小規模の出版社の会合がzoomであったので参加した。
経営の悩み事などを出し合って、他社の事例を参考にして自社の経営に活かすことを目的とした会合だった。
私は出版社の経営者になって四年と少しだが、未だに出版社の経営がうまくいく秘訣など全く分からないので、何か経営のヒントを得られればと思ったわけだが、出版社の経営も、取り扱うジャンル(絵本や教育書が専門、実用書が専門、人文書が専門、小さくても総合出版などなど)や、社員数(2名と4名の違いでも、人件費は大きく変わるし、編集・営業・経理事務の分業の中身もかなり変わり、出版社の経営の仕方も変わってしまう)によっても、かなり違うようで、なかなか我が社(スタッフ2名)にそのまま当てはまる経営のヒントは得られないことがあらためてよくわかった。
今までも、先輩の出版社経営者から、経営手法については直接教えをいただくことが多々あったのだが、それを参考に実行をしても、あまり効果がなかったり、実行しても全くその通りの結果が出なかったり、そもそも実行ができなかったり、新刊の内容(低価格で部数多めで一般向け、高単価で専門書で小部数、著者の知名度の有る無し、印税の有る無し、印税率の低い高い、助成金の有る無し、自費出版の有る無し、新刊点数)によって、その出版社の経営、資金繰りもまた違うものになってしまうから、他社の事例は、一部は参考になることはあっても出版社経営の全体の参考になることは少ない。
新刊点数が少なくても経営を回せている会社は、新刊一点あたりの売り上げや利益額が高い、既刊本のロングセラーが多い、重版率が高い、など、かなり高いレベルの仕事をしていて、しかもそのレベルを保ち続けているのだが、そうなることが我が社の目標でもあるけども、なかなかまだそのレベルまでは一気にはいけない。
最近出した新刊は、どれも予想以上の売り上げは出せているから、だいぶ我が社もレベルは上がってきたとは思うけど、まだまだ経営を安定させるためには全然足らない。
ただ、あまりに売れること、利益が出ることばかりに目を向け過ぎると、肝心の「この本は売れるか分からないけども、どうしても出したい、世に問いたい」とか、「いっきには売れないけども、頑張れば、地道には売れるはず」とか、「売れなくても良いから、とにかく出したい。著者の熱意にも応えたい」とか、そういった企画に手が出にくくなったり、最悪まったく出せなくなってしまう恐れがある。
あまりそれがエスカレートすると、多分出版の仕事自体がつまらないものになってしまいそうで、金のためだけにやるようになってしまったりしたら、もう別の業種に転向した方がいい。
まあ、ものすごい儲けたいわけではなく、会社が潰れずに私と社員が生活をしていけて人生をある程度楽しめるために必要な収入さえ得られれば、あとは好きな本を作れれば、何も不満は無いんだけど。
しかし、そのレベルを保ち続けることすら、今や大変な時代になっているのもまた現実ではある。
猛烈に働いて、やっとそのレベルを保てるかどうか、そんな感じだ。
この記事の執筆・監修者
春日俊一(かすが・しゅんいち)
株式会社アルファベータブックス代表取締役。埼玉県生まれ。
若い頃はシンガーソングライターを目指しながらフリーター。その後、書店員、IT企業、出版社の営業部を渡り歩いたのち、2016年にアルファベータブックスに入社。2018年に事業承継して代表取締役に就任。