気がつけば社長になって6年経ちました。
早かったような、それでいて振り返ると、曲がりくねった道のりが地平線の彼方まで続いていて、よくもまあ6年も走り続けたなあ、などど感慨に耽ってしまいそうになりますが、前を向くと、そこには地平線の彼方までゴールらしきものなどまったく見えない道があり、小さな山から、大きな山、谷や深い森もあり、それを見て怖気付いて足が止まってしまったときは、それで終わりなんだろうと思います。
そもそも、その先にゴールなど初めからないのかもしれないのだけれど、それでも走っていく自分の姿に、「無謀すぎるねえ、馬鹿だねえ〜」という自分と、「向こう見ず過ぎて、カッコいいね〜」という自分がいたりします。
この国の出版をとりまく状況は、予想を超えるスピードで悪くなっていて、出版社の経営者は、毎月の資金繰りがあるので、それを身に染みて強く感じる、感じざるを得ないのです。それは経営者でないと、やはりここまでは切実には感じないと思います。
まあでも、出版社の社員までもが、そこまで切実に感じ過ぎてしまったら、もう日々の仕事は苦しみばかりになってしまって、本を作る喜びを汚されてしまうので、社員はそこまで切実に感じる必要はないとも思います。それよりも、より良い本を作ることに全集中することのほうが大事ですし、それは自分のためでもあり、良い本に仕上げれば、著者も翻訳者も喜ぶし、読者も喜ぶし、それは売上にもつながっていくのですから。
私は出版社の経営者ですが、一人の編集者でもあり、もっといえば営業部長でもあり、経理部長でもあるわけで、さまざまな側面の視点をもって日々本を作っているので、その自分の中にある様々な視点に日々苦悩することになります。編集者としての自分はもっと造本を豪華にしたいページ数を増やしたい、でも経理部長の自分は、もっと安い紙を選んでページ数を減らしてほしい、編集者の自分はもっと時間をかけて編集を突き詰めたい、営業部長の自分は、この日までに出さないと話題にできないし宣伝効果が薄れるから、そこまで編集に時間はかけられない、という感じで、一人で、日々悶絶しているのです。
社長一人と社員一人の小さな会社なんで、特に自分が編集した本については、ほとんどのことを自分一人で決められるので、社内の人と闘う必要がないのは確かに楽です。ただ、孤独な闘いです。優秀な営業部長や経理部長が仕事をバックアップしてくれるわけではないので、自分がよくわかっている、自分のレベル、能力しか出せない、自分の中の営業部長や経理部長が、予想外の働きをしてくれるわけではありません。すべて想定内か、ときには力を出し切れずに想定より下の働きしかできないときもあり、しかもそれを自分はすべて知っているので、今度は自己嫌悪との闘いになるわけです。
そんなことを6年間、繰り返しながら、また6年前に社長になった4月がやってきましたが、あとなんとかさらに4年頑張って、経営者10年越えを目指したいと思う自分がいることに、「まだまだ俺はやれる」という気持ちも湧いてきた、春の日です。
鴨居の大将の名言を聞きつつ、今日も働きます。
(3:50からのところが特にイイー!)
この記事の執筆・監修者
春日俊一(かすが・しゅんいち)
株式会社アルファベータブックス代表取締役。埼玉県生まれ。
若い頃はシンガーソングライターを目指しながらフリーター。その後、書店員、IT企業、出版社の営業部を渡り歩いたのち、2016年にアルファベータブックスに入社。2018年に事業承継して代表取締役に就任。